アインシュタインの理論には、2つの顔がある。
一つは、100年以上前の理論が今も毎日ポケットの中で働き続けている、証明済みの成功例。もう一つは、アインシュタイン自身が生涯納得できなかった、彼にとっての“苦手分野”。
同じ人物の理論なのに、正反対の運命をたどった2つの話。
GPSは、相対性理論なしでは成立しない
スマートフォンのGPSは、地上から2万kmの高さを秒速4kmで飛ぶ衛星からの信号をもとに位置を計算している。この衛星の時計には、2つの相対論的効果が同時に働いている。
まず特殊相対性理論。高速で動くものは時間の進みが遅くなるため、衛星の時計は地上より1日あたり約7マイクロ秒遅れる。
同時に一般相対性理論も働いていて、重力が弱い高高度では時間の進みが速くなるため、こちらは1日あたり約45マイクロ秒進む。
差し引きすると、衛星の時計は地上より1日あたり約38マイクロ秒ずつ進んでいく計算になる。数字だけだとピンとこないが、光は1マイクロ秒でおよそ300m進むため、38マイクロ秒分の誤差は距離に換算するとおよそ11kmに相当する。これを補正しないままにすると、GPSは1日で最大11kmもずれてしまう計算になる。
アインシュタインが1915年に一般相対性理論を発表したとき、それが数十年後にナビゲーションシステムの精度を支えることになるとは、本人も想像していなかっただろう。100年前の理論物理学が、今この瞬間もスマートフォンの中で現役で動いている。
でも、量子もつれだけはアインシュタインも認めたくなかった
一方で、アインシュタイン自身が最後まで強く抵抗した理論もある。それが量子もつれだ。
2つの粒子を「もつれ」の状態にすると、どれだけ距離が離れていても、片方を測定した瞬間にもう片方の状態が決まる。東京とニューヨークほど離れていても、その相関は瞬時に成立するという、直感に反する現象だ。
アインシュタインはこの性質を「不気味な遠隔作用」と呼んで批判し、「神はサイコロを振らない」という言葉を残したことでも知られている。量子力学が本質的に確率的にしか予言できないという立場そのものに、生涯納得できなかった人物だった。
しかしその後の実験(ベルの不等式の検証など)を通じて、量子力学の予言の方が正しいことが繰り返し確認されている。興味深いのは、この現象があっても相対性理論は破れていないという点だ。もつれによる相関は瞬時に成立するように見えても、それを使って情報を光速より速く伝えることはできない、というのが現在の理解になっている。
同じ理論家でも、受け入れられるものとそうでないものがある
GPSという実用の場では圧倒的に正しさが証明されている相対性理論と、提唱者本人が最後まで居心地悪く感じ続けた量子もつれ。同じアインシュタインという一人の物理学者の中に、この両方が同居していたというのは、科学史として見ても面白い構図だ。
理論物理学は、必ずしも提唱者の直感や好みに沿って進むわけではない、ということでもある。
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